- 田中康雄、「もしかして私、大人の発達障害かもしれない!?」、2011、すばる舎
ふと図書館で手に取った本です。発達障害とは何なのか?というよりも、どうやって共に生きていきましょうか?ということに焦点が当たっています。発達障害の大人本人にも、発達障害の傾向があるかもしれない大人にも、周りの人にも参考になります。240ページと軽く、文字も大きめ、イラストよりも文章で読みたい人にはおすすめです。語り口がおだやか。良書。
印象的だったのは、障害理解というより人間理解の話だということ(p.239)。
周りのあり方ですが、今の日本の会社で、そんな余裕があるところはほとんどあるまいと思いました。一般の新入社員を育てていくことすら放棄しているような会社では難しいでしょう。人を大事にする社会になってほしいものです。そうしていかないと日本も危うい。
「良いとこノート」(pp.87-94)というものが紹介されています。長所を自覚しましょう、短所は長所にしましょうということなのですが、意識的に実行する必要がありそうです。二次障害でうつ病になっているような場合は特に。
ビジネス書が参考になりますよ(p.128)というのは、その通り。ビジネス書やハウツー本なんか読んでもしょうがないという人もいますが、そういう人は定型さんということなのでしょう。
ある程度の年齢以上の人は、いろいろ書いてあるアドバイスの大半は実行済み、または実行しようとしたことがあるのではないでしょうか。そううまくいけば苦労はないわけですが、小手先のテクニックでも使えるものは使ったほうがよさそうです。
時間割作り(pp.143-148)は、また試みてみますかね……うまくいった試しがないのですが。ブロックごと入替えていく、修正を繰り返す、できなくても次に行く、あたりに気をつければましになるかもしれません。
目次を引用
- プロローグ 社会に出てから「行きづらい」!
- こんなことで困ってない?
- エピソード1 職場のコミュニケーションに戸惑うAさん
- エピソード2 子どもの頃から忘れっぽいBさん
- 「誰にでもあること」に思えるけど……
- その「生きづらさ」は努力不足なんかじゃない
- 第1章 大人の発達障害って、なに?
- 主な原因は、脳の発達のアンバランス
- 生まれ持った特性に関係がある
- ただし「特性=障害」とは言い難い
- 「本人や家族のせい」は大きな誤解
- 成人してからわかるということ
- 大人になって外来を訪れる人たち
- なぜ大人になるまで気づかない?
- 自分の中では「できないのが当たり前」に
- うつ、パニック……二次障害からわかることも
- 発達障害の人は増えているの?
- 「増えた」のではなく「目立ってきた」
- 「生きづらさ」という基準で急浮上!?
- すぐに「白か黒か」を決めたがる私たち
- 今は誰もが「生きづらさ」を感じる時代
- ギスギスした職場で全力疾走
- オールマイティを目指して悪循環に
- 多様性こそ「生きやすさ」のカギ
- 大人になってわかる発達障害って?
- 近年になって注目され始めた障害
- 大人の発達障害。主なものはこの2つ
- PDD (自閉症・アスペルガー症候群など)
- AD/HD (注意欠陥・多動性障害)
- 重要なのは、生活で支障が出るかどうか
- 診断してもらえば、すべて解決?
- 自分に説明がつくことは一歩前進だけど
- 診断はあくまでスタートライン
- 治療をすれば、治るの?
- 人の特性を変える薬は存在しない
- 「治す」というより「生きやすくする」
- 社会で活躍している人もたくさん
- 特性をプラスに活かして大成功
- 「人との出会い」も大きなポイント
- 第2章 「私ってそうかな」と思ったら
- 責めたり悔やんだりは、もうおしまい
- 「自信のなさ」はこうして作られる
- だんだん心のガードも堅くなって……
- でも、「これからの私」は自分次第!
- 私と周りの人。うまくいかないときは
- 「自分ばっかり……なぜ?」
- 「あの人はいつも……なぜ?」
- 互いに「知らないまま」のすれ違い
- まずは、自分のことを知ろう
- 「自分はダメ」。それって本当なの?
- 苦手と特異を再チェック
- 「苦手だな」と思うことって?
- 「特異だな」と思うことって?
- 「良いところノート」で自己評価を上げる
- 長所に気づく集中レッスン
- 短所もこうして長所に転換
- 「振り返りノート」で傾向が見えてくる
- 自分の行動を見直す「自分会議」
- 自分が楽になるコツを見つけよう
- 「生活の工夫」にエネルギーを集中
- 自分のがんばりはきちんと褒める
- たとえ「うまくいかない」ときがあっても
- 周りの人に働きかけてみよう
- 小さなヘルプをお願いする
- 相手とギブアンドテイクの関係作り
- どうする? カミングアウト
- 「実は私は、発達障害があります。」
- 「障害」ではなく「私」を伝えよう
- 「伝えて終わり」「聞いて終わり」にならないために
- 1人でも味方がいれば心強い
- すべての人がわかってくれなくても大丈夫
- たった1人の応援が大きな助けに
- 「こんな人になりたい!」モデルを探そう
- 今より生きやすい場所が見つかることも
- 移動、転職。たちまち仕事がスムーズに
- ひとりで悩まず誰かに相談
- 第3章 毎日の「困った!」はこうして解決
- 仕事、プライベート。工夫できるところはいっぱい!
- 生活のスキルアップを始めよう
- 本、テレビ、ネット。身近な情報にも注目
- ケース1 遅刻してしまう
- ケース2 電話対応がうまくいかない
- ケース3 仕事の段取りが苦手
- ケース4 急な変更でパニック
- ケース5 仕事に集中できない
- ケース6 片付けられない
- ケース7 物を忘れる、なくす
- ケース8 会話で相手が不機嫌に
- ケース9 融通がきかないと言われる
- ケース10 仕事を断れない
- ケース11 友人・恋人関係が続かない
- ケース12 お金の管理が苦手
- 第4章 「あの人ってそうかな」と思ったら
- 周りの人ができるのはどんなこと?
- ただ「話を聴く」だけでも大きな助けに
- サポーターは専門家とは限らない
- 一番の支えは身近にいる人たち
- 今までの理解のズレを修正しよう
- その人を責める気持ちから一歩前進
- ただし安易なラベリングは禁止
- 「障害だから特別」にならない対応を
- 決して「してあげる」だけの関係じゃない
- 最高のサポートをした高校生
- 相手から「もらうこと」もいっぱい
- 会社になくてはならない存在のTさん
- その人を知ることがサポートの第一歩
- 一見不思議。でもそれなりの理由アリ
- だんだん付き合うツボがわかってくる
- こんなやりとりで理解が進む
- 活躍してもらいたいのはどんな場面?
- その人のプラス面を知っていますか?
- 「できないこと」を見てもいいことナシ
- 適材適所で輝く場所がきっとある
- こんな伝え方がわかりやすい!
- 「うまくいかない」と思ったら要チェック
- 「何を」「どこに」「どんなふうに」。具体的に
- 「優先順位」「段取り」。見通しを明確に
- 「箇条書き」で一つひとつ。シンプルに
- 「冗談」「比喩」を多用しない
- 「メモ」「表」。話すより見せるほうが有効なことも
- 成功体験がその人の大きな支えに
- できることからスモールステップで
- 褒めるときはすぐ。注意はシンプルに
- こんな一言でモチベーションアップ
- サポートは細く長く。できることから
- 「すぐにどうにかしなくちゃ」と焦らない
- 関わりは「量」ではなく「質」を大切に
- ときにはお休み。肩の力を抜いて
- エピローグ 私もみんなも「生きやすい」ヒント
- 毎日にちょっぴり「笑い」があれば
- お互いにリラックスルして乗り切れる
- 診断後、それぞれの選択
- エピソード1 職場のコミュニケーションに戸惑うAさん その後
- エピソード2 子どものころから忘れっぽいBさん その後
- 誰もが誰かとつながって生きていく
本書での大人の発達障害はおもに自閉症スペクトラムと注意欠如・多動性障害の二つを並列に扱っています。56~58ページの表がよくまとまっているのでそのまま引用しておきます。
主な症状と様子 | 生活上での姿 | 本人の思い | |
---|---|---|---|
PDD (自閉症・アスペルガー症候群など) |
●社会性の障害 (他人への関心が乏しい、人の気持ちを理解するのが苦手、人から関わられることや触れられることをいやがる、人への関わり方が一方的、表情が乏しいなど) ●コミュニケーションの障害 (会話が成り立ちにくい、紋切り型のせりふ口調・気持ちの込もらない話し方など独特な話し言葉、指示が理解できない、人の表情や場を読むことができない、冗談や比喩が理解できず言葉通りに受け取ってしまう、自分の興味のあることを一方的に話す など) ●想像力の障害とそれに基づく行動の障害 (体を揺する・物のにおいをかぐ・感触を楽しむなど独特の行動を好んで繰り返す、日課や習慣などの変化に弱く激しく抵抗する、特定の物を持つことに執着する、カタログ的な情報を好んで大量に暗記する(数字・文字・標識・時刻表・地図・路線図) など) ●その他に見られる特有の症状 (音や痛みなどの感覚が敏感だったり鈍感だったりする、計算力や記憶力など特異な能力が特出しており知的機能がアンバランス、睡眠パターンが不規則 など) |
友達ができにくく、職場で孤立してしまう / なぜか周囲の人を怒らせる発言をしてしまう(思ったことをそのまま口にしてしまうため相手に失礼なことを言ってしまう) / 指示通りにして怒られてしまう(応用がきかない) / チームでの仕事が苦手(自分のやり方に固執してしまう) / 人と話がかみ合わない / 同時に複数のことができない / 暗黙の了解・たてまえと本音がわからず混乱する / 不安になりパニックを起こす など | 「わからない」という恐怖に近い不安 |
AD/HD (注意欠如・多動性障害) |
●多動 状況と無関係に常に多動。極端なくらいに活動的。 (じっとしていられない、しゃべりすぎる、動き回る、危険な場所に登る など) ●不注意 注意集中が苦手で、一定時間人の言うことが聞けない。忘れっぽい。 (うわのそらでボーッとしている、忘れ物が多い、物をなくすことが多い など) ●衝動性 予測や考えなしに、直ちに行動を起こしてしまう。 (質問が終わる前に答えてしまう、考えずに行動する、順番を待てない、人を妨害する など) |
仕事中に落ち着かず、頻繁に足を組み直したり、貧乏揺すりをしたりする / 上司やパートナーの話が聞けない / お金の管理が苦手 / 会議中ボーッとしてしまう / 片付けや整理整頓ができない / 運転事故を起こしやすい / 書類などの提出期限が守れない / 仕事や家事の段取りが悪い / 約束を忘れてしまう / 人と口論になりやすい / 衝動買いをしてしまう / 転職を繰り返す / 不用意な性関係を持ってしまう など | 「わかっている」のに自分をコントロールできないもどかしさ |
表 (pp.56-58)
- 出版元 ☞ 「総合出版/すばる舎 もしかして私、大人の発達障害かもしれない!?」
- Amazon ☞ 「Amazon.co.jp: もしかして私、大人の発達障害かもしれない!?: 田中康雄: 本」
- カーリル(題名設定のみ) ☞ 「カーリル | もしかして私、大人の発達障害かもしれない」
(2012.2.19)