自殺がとても少ない町というのがあるそうで、徳島県の海部町というところです。その調査・研究をした岡檀氏が一般向けにやさしく読みやすい本を書かれています。
内容はリンク先の目次どおりです。
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著者が現地調査で導き出した五つ自殺予防因子と、生き心地良さを適当に列挙すると
- いろんな人がいてもよい、いろんな人がいたほうがよい
- 多様性重視
- 他人と足並みをそろえない。「浮く」ことがない。コミュニティから排除されない
- ダサいこと、野暮なことはしない
- 人物本位主義をつらぬく
- 職業上の地位や学歴、家柄や財力でなく、問題解決能力や人柄
- 年長者が年少者に服従を強制しない。「朋輩組」に、しごきがない
- どうせ自分なんて、と考えない
- 政府だって動かせる。積極的に関わる
- デイケア行くのも大威張り。元気
- 「病」は市に出せ
- 「病」は生きていく上でのあらゆる問題。「市」は公開の場
- 「やせ我慢はええことがひとつもない」、「でけんことはでけんと、早う言いなさい。はたに迷惑かかるから」
- うつ受診率が高まる。オープンで、軽い鬱ですむ。
- ゆるやかにつながる
- ゆるい絆
- あっさりとしたつきあい。(物理的密集度は極めて高い)
- 人間関係が固定していない、膠着していない。
- 人に関心をもつのと、監視しているのは違う
海部町はいまは徳島県海部郡海陽町になっています。文中で触れられている両隣の町というのは、たぶん合併した海南町、宍喰町のことでしょう。どちらも海部町ほど自殺率は低くないようです。A町がどこなのかはわかりません。旧海部町がどこなのか地図で見たいときは、海部駅か、海陽町役場 海部庁舎で検索するとわかりやすそうです。厳密に海部町が海陽町のどこに対応するかは、合併に伴うお知らせ | 海陽町に表があります。
川の南で港があるのが二千人余りの海部町側、北が六千人足らずの海南町側です。人数は、海陽町プロフィール | 海陽町 の【平成17年国勢調査速報値より】。都市部だと町や丁、マンションくらいの人数かもしれません。
コミュニティが独特なのだそうです。この本に述べられているような人はときどき見かけますが、まとまって存在するのは見たことがありません。
全国の市区町村のデータを使って地理的特性も解析していて、自殺率に影響を及ぼしているのは、
- 可住地傾斜度
- 可住地人口密度
- 最深積雪量
- 日照時間
- 海岸部属性
だそうで(p.152)、
日本の自殺希少地域の多くは、「傾斜の弱い平坦な土地で、コミュニティが密集しており、気候の温暖な海沿いの地域」に属している (p.153)
自殺多発地域の特徴はこの逆である。「険しい山間部の過疎状態にあるコミュニティで、年間を通して気温が低く、陶器には雪がつもる地域」に多い(p.153)
とのこと。直感的にうなずけますが、統計的にもそう言えるのですね。海部町については、かつて、材木の積出港として栄えたそうです。
私の(あくまで)個人的な印象では、かつての地方の交通の要衝・港で富と文化が残っているところ、または、大都市への通勤圏の新興住宅地なんかが、いろんな人が集まってきていて、風通しがよいように思えますが、どんなもんでしょう。
ともかく、気軽に読める本なので、興味をひかれたら、ぜひどうぞ。
(2013/10/26)